テクノファンの見た夢|Underworld Sakanaction; @東京ガーデンシアター

 昨日、有明にある東京ガーデンシアターで行われた、Underworldサカナクションのツーマン公演、『Underworld Sakanaction;』を観てきた。

 当初は7月の6日・7日に行われる予定だったこのライブは、サカナクションのボーカル・山口一郎さんが体調不良により活動を休止してしまったため延期。今月の4日・5日に振り替えられたものの、それでも体調が回復しなかったため、サカナクションは山口さんを除く4人体制で、DJセットでの出演となった。山口さんはツーマンライブが決まった時、わざわざ自身がパーソナリティを務めるラジオ番組、NHK-FM『Night Fishing Radio』でUnderworldの特集を組み、その経歴や魅力を詳細に語り、さらに『「Born Slippy .NUXX」のキックの音は聴いた人を惹きつけて離さないよう計算されて作られていて、「ルーキー」を作る際には皆で研究した』というエピソードまで話す熱の入りようだったので、フェスやワンマンだけでなく今回の公演も出演をキャンセルしたことには結構驚いた。それに伴って払い戻しも行われ、僕も両日取っていたチケットのうち、2日目のチケットは払い戻すことにした。勿論、山口さんが出演しないからというのもあるけれど、一番はD.A.N.のワンマンライブと被ってしまったからだった。山口さんの復帰も間に合わなかった訳だし、どうせなら12月辺りに振り替えてくれれば良かったのに……と思うのが正直なところ。

 公演当日。開場時間を少し過ぎた頃、会場である東京ガーデンシアターに到着した。こういった指定席でのライブは席種ごとに案内されることが殆どなので、一番良いアリーナS席を取っていた僕は比較的早く案内されるだろうと思い、わざとギリギリの時間に向かったのだけれど、なんと席種は関係なく、早い者順での入場だった。サカナクションUnderworld、両者の中に混じって会場に入ると、コラボグッズの売り場にはもう既に多くの人が並んでいた。早めに家を出なかったことを後悔しつつ列に並ぶと、そこから列はどんどん伸びていき、20分ほど経った頃には、なんと上の階まで達していた。それもそのはず、サカナクションの物販レジは4つほどあったのに対して、コラボグッズの売り場には2つしかレジが無かった。『開演まであと30分なのに大丈夫だろうか……』と心配しながら並んでいると、レジ前の最後の直線に差し掛かったところで、コラボタオルが売り切れに。なんとかレジに辿り着くと、欲しかったLサイズのTシャツは残っていた。この時点で、時刻は開演の20分前。僕はそれを買って、急いで座席に向かった。開演時間が遅れてしまわないか不安だったけれど、あの後グッズはすぐに売り切れたようで、開演が大きく遅れるようなことは無かった。

 開演時間を少し過ぎたあと、ステージの左手から4人が登場。立ち位置は、右手からキーボード・岡崎恵美さん、ベース・草刈愛美さん、ドラム・江島啓一さん、そしてギター・岩寺基晴さん。DJセットの隣にはキーボードが置かれ、曲によっては岡崎さんが度々移動し、「僕と花 (sakanaction Remix)」ではイントロのフレーズを、「『バッハの旋律を夜に聴いたせいです。』」ではバッハの「チェンバロ協奏曲」のフレーズを演奏していた。また、草刈さんはベースを持って登場し、「834.194」や「聴きたかったダンスミュージック、リキッドルームに」では生のベースを、僕と花 (sakanaction Remix)」ではシンセベースを弾いて曲のグルーヴを作っていた。

 ステージの後ろにある巨大なスクリーンで流れる映像は、『SAKANAQUARIUM 光 ONLINE』や『NF OFFLINE FROM LIVING ROOM』など、サカナクションの映像作品やステージの演出に度々携わってきた、真鍋大度さんの率いるRhizomatiksが担当。Rhizomatiksは普段から、山口さんが主宰しているカルチャーイベント「NF」でVJを担当していて、メンバーの草刈さんや江島さんのDJに合わせて演出を行う機会は多くあったので納得の人選。その時はいつもモノクロで硬派なビジュアルを貫いていたから、今回の公演でも同じような演出をするのかと思いきや、原色を派手に用いた色鮮やかな映像が終始流れていて驚いた。これは、草刈さんや江島さんが、普段のDJでは派手な緩急が無く音数も少ないテック・ハウスなどを中心に選曲しているからで、今回の公演でフィーチャーされたような派手な緩急で観客を煽るEDM的な曲に合うVJを考えた結果がこれなのだろうと思う。系統が違っても柔軟に対応するところに、Rhizomatiksの凄さを改めて感じた。

 セットリストに関しては、公式ファンクラブ・NF memberに掲載されたリハーサル映像でされた、『過去にライブでDJセットで披露した曲や、メンバーが手掛けたリミックスがメイン』『この公演の為に作ったアレンジもある』という説明の通り、DJセットでは定番の「INORI」や「SORATO」、山口さんの単独ツアー『NF OFFLINE』でも披露された草刈さんアレンジの「ユリイカ」などが演奏された。そして気になる『この公演の為に作ったアレンジ』は、「834.194」「聴きたかったダンスミュージック、リキッドルームに」「『バッハの旋律を夜に聴いたせいです。』」の3曲。3曲ともフェスやツアーで別のアレンジで披露されたことはあるものの、それとはまったく異なる、この公演のためだけのアレンジだった。

 個人的な感想を言えば、2012年の『ZEPP ALIVE』ツアーを最後に演奏されていない、シングル『夜の踊り子』収録の「僕と花 (sakanaction Remix)」や、2014年に出演したフェスやツアーで披露され、LIVE DVD/Blu-ray『SAKANATRIBE 2014 -LIVE at TOKYO DOME CITY HALL-』にも収録されている「Ame(B) -SAKANATRIBE MIX-」は、当時のライブでしか聴くことのできない封印された曲だと思っていたので、聴くことができて本当に嬉しかった。また、「Ame(B) -SAKANATRIBE MIX-」と「SORATO」は肝となっている歌のメロディーが同じため、このようにメドレーで披露されるのはとても意外だった。多分もう無いんじゃないかな、と思う。

 「SORATO」で会場の盛り上がりが最高潮に達し、そのまま終わるかと思いきや始まったのは「グッドバイ (NEXT WORLD REMIX)」。LIVE DVD/Blu-ray『SAKANAQUARIUM 2015-2016 "NF Records launch tour"』から同曲の演奏シーンを抜き出し、山口さんが歌っている様子が後ろの大きなディスプレイで映し出され、『例え一人欠けていたとしても私たちは5人でステージに立っている』と言わんばかりの、サカナクションの絆の強さが伝わってくる演出には、思わず踊ることも忘れて見入ってしまった。曲が終わると、メンバーが一人ずつ「ありがとうございました」と挨拶をした後、江島さんが「この後のUnderworldも楽しんでいってね!」と言ってサカナクションのステージは終わった。

 30分の長いセット転換を挟んだ後、女性の語りなどがコラージュされアップデートされた「Juanita 2022」からUnderworldのステージが始まった。先月の30日に行われた大阪・なんばHatchでの単独公演では「Cups」や「Kittens」など、アルバム『Beaucoup Fish』からの選曲がメインだったのに対して、今回は『Rez』のカップリング曲である「Why, Why, Why」や、映画『ザ・ビーチ』のサウンドトラックに収録されている「8 Ball」など比較的マイナーな、2011年に発売されたベスト盤『1992-2012: The Anthology』からの選曲が目立った。

 サカナクションが凝ったVJを演出の要としたのに対し、Underworldはストロボ照明を除いて派手な演出はあまり無く、簡潔で完成されていたような印象だった。様々な曲で取り入れられていた、ステージ上に取り付けられたカメラで連写された写真が次々とスクリーンに映し出される演出は、再現性が無いその場限りの演出という意味で、ライブを観たという記憶を唯一無二の体験に変えてくれているようでとても良かった。面白かった演出で言うと、今までのアッパーな流れを断ち切ったミドルチューン「Why, Why, Why」では、等間隔に置かれた棒状の照明が回転しながら光ったり消えたりを繰り返していて、斬新で面白く感じた。

 公演全体を通して、曲が終わった後に『ありがとう、Thank you!』や『ありがとうございます』と挨拶をしたり、曲中に『Tokyo!』と叫ぶなど、日本のファンに対するサービスはとても多かった。特に「S T A R」では、歌詞の『Tom Jones』を『Tokyo』に変えて、『I spy Tokyo, Tokyo down in peckham』と歌詞を変えて歌っていて、周りからは大きな歓声が上がった。また「8 Ball」では、スクリーンで映し出される映像が渋谷のスクランブル交差点付近の定点カメラを早送りにしたもので、この為にわざわざ映像素材を用意したのだと思うと、日本にいるファンとしてはそれだけで嬉しい思いだった。

 最後、『今晩ここに来てくれた、とても勇敢で素晴らしいサカナクションに敬意を表して。』と言って始まった「Born Slippy .NUXX」は、間違いなく今回の公演で一番盛り上がったシーンだと思う。正直、ただただUnderworldに圧倒されてしまって、観た後にはサカナクションのDJセットの印象はだいぶ薄くなっていた。

 公演自体はとても良かったのだけれど、ただ一つ気になったのは、観客の質。今回の公演では、スマートフォンでの写真の撮影が許可されていたのだけれど、それはあくまで写真、つまり静止画のみで、録画は禁止されていた。にもかかわらず、僕の数えた限りでは7,8人ほど、録画をしている人が確認できた。僕の周りの席にいた二人組に至っては、なんとフラッシュを焚きながら動画を撮っていた。さらにその二人組は、演奏中にもかかわらずマスクを外して大声で雑談をし続けた挙句、空になったコップのゴミを残して、規制退場の呼びかけを無視して帰っていった。強い。驚くべきことに、これらをしている人は皆、Underworldの熱心なファンのようで、開演前に『Underworld楽しみ~』や『今日は踊るぞ~!』と話していた人や、周りの人と比べても踊り方が激しい人たちばかりだった。アーティストや演奏に対しての熱意と自分の身の振る舞い方に大きなギャップがあって、その溝の深さにとても驚いた。本当に好きなら演奏中に大声で雑談なんてしないと思うのは僕だけだろうか……。一番チケットの料金が高いアリーナのS席でさえこの様だったのだから、他のエリアはもっと酷かったのではないかな、と思う。ちなみに、最後の「Born Slippy .NUXX」では、曲が始まった瞬間、先ほど触れた7,8人が全員一斉にスマホを掲げ始め、見事な連携に少し笑ってしまった。みんな好きだね……。勿論、これはUnderworldのファンだけではなく、サカナクションのファンも物販列で割り込みをしたりと、マナーに反する行為があったよう。ライブが非常に素晴らしかっただけに、お互いのファンの振る舞いが本当に残念だったなぁと思う。

 と、ネガティブな話をしてしまったけれど、重ねて言うように、ライブ自体は本当に素晴らしいものだった。特にUnderworldについては、今までも音源はよく聴いていたものの、生でライブを観るのは初めてだったので、今回観ることが出来てとても良かったし、何よりパフォーマンスがとても良かった。もしまた来日公演があるなら絶対に足を運びたい。そしていつか、山口さんが復帰した完全体のサカナクションとのツーマンライブもやって欲しいなぁと思う。一郎さん、その時は是非、Underworldとの親和性が高そうなのにセットリストから外されてしまった「SAKANATRIBE」をお願いします。

 

セットリスト

サカナクション
01. 834.194 [新規リミックス]
02. ユリイカ [NF OFFLINEアレンジ]
03. 「聴きたかったダンスミュージック、リキッドルームに」 [新規リミックス]
04. minnanouta (Ej_REMIX)
05. INORI
06. 僕と花 (sakanaction Remix)
07. 『バッハの旋律を夜に聴いたせいです。』 [新規リミックス]
08. Ame(B) -SAKANATRIBE MIX-
09. SORATO
10. グッドバイ (NEXT WORLD REMIX)

Underworld
01. Juanita 2022
02. Two Months Off
03. S T A R
04. Border Country
05. Push Upstairs
06. Why, Why, Why
07. 8 Ball
08. Jumbo
09. King of Snake
10. Rez
11. Cowgirl
12. Dark and Long (Dark Train)
13. Born Slippy .NUXX